40、葬儀 ~最後のお別れ・腎不全と闘い抜いたまりもへ~
21日のお昼にマリモの葬儀は行われた。実家の母が同席したがったけれど、このコロナ禍では同居家族以外の出席は禁止されていた為、私と夫の二人で見送ることになった。葬儀は12時からなので、11:30にマンションの前に送迎車が来る予定になっている。マリモの亡骸を撫でていられる時間はもう僅かしかない。
改めてマリモの冷たい頬を撫でる。毎日保冷剤を入れ替えて冷やしていたけれど、その体から微かに臭気を感じる。やはり今日が家においておける限界だったのだろう。
ベッドに横たわるマリモは、息をしていないものの、穏やかにスヤスヤ眠っているようだった。むしろすべての苦しみから解放された横顔は、最期の日々よりも安らかにさえ見える。
たとえ亡骸でもまだ一緒に過ごしたいけれど、あと数時間後にはマリモの体は火葬されてしまう。朝からほとんどの時間をマリモの横に座って過ごし、送迎車を待った。
葬儀場へ
送迎車はほぼ予定通りにマンションの前に着いた。マリモは横たわっているベッドごと主人が抱えて運び、私は葬儀用に用意した手紙やマリモの好物、昨日トレーナーさんから頂いたフラワーアレンジメントを持って葬儀場に向かった。
葬儀場で受付を済ませると、マリモの葬儀を行う部屋に通された。そこで遺影に使うデータを葬儀社のパソコンに送ったり、書類を書いている間に、担当者がてきぱきと葬儀の準備を整えていく。棺に見立てたバスケットが運び込まれると、私と夫の二人でマリモをベッドからバスケットへと移した。
バスケットの中のマリモは、真っ白なシーツの上に、真っ白な布を掛けて、顔だけが出ている。バラバラにしたフラワーアレンジメントの花が運ばれてきて、私と夫はマリモの顔周りや体全体が花で覆われるように花を置いて行った。続いてお皿に盛られたヨーグルトとチーズ、角切りのサツマイモ、歯磨きガムを開いている部分に乗せ、最後に足元の辺りに大好きだったリンゴを1つ置いた。
出棺、最後のお別れ
そして簡単なお別れのセレモニーが行われると、遂に出棺の時間となった。もうマリモの姿を見ることさえできない。どんなに泣いても涙が止まらない。火葬する部屋に移ると、担当者は静かにマリモの入ったバスケットを火葬する窯に入れた。扉を閉めるまで私と夫は手を合わせてマリモと最後のお別れをした。
1時間ほど待合室で待っていると、火葬終了の知らせがきた。通された部屋の台の上には、マリモの骨と骨壺が置かれている。マリモの小さな骨を見るとまた涙があふれてくる。
小さな骨たちは何故かマリモが我が家に来た生後3か月の時の、小さな赤ちゃんだったマリモの姿を思い起こさせた。あれから1年9か月、マリモは私たち夫婦にたくさんの笑いと幸せな時間を残し、精一杯生き抜いてくれた。
夫と二人、一つ一つ骨についての解説を聞きながら手でマリモの骨を拾い骨壺に収めた。最後に担当者が骨壺に蓋をして骨壺入れにお骨を収める。遺影とお骨を受け取ってマリモの葬儀は終わった。
マリモのお骨は夫が大切に胸に抱え、遺影は私が持って送迎車に乗り込む。ベッドやブランケットは全て葬儀社で処分してくれるので、帰りの持ち物はお骨と遺影と斎場で渡された花だけだった。
花に囲まれた祭壇
家に帰ってマリモのケージの上に簡単な祭壇を作った。ケージの上に薄い板を置き、私が洋裁に使っていた白い布を被せてお骨と遺影を置く。横には斎場でもらった花を生けた。
少し休んでから、買い物がてらマリモの最後のトリミングの写真をサロンに取りにいくことにした。ドアを開けると女性オーナーが直ぐに写真を用意し、大きなフラワーアレンジメントを渡してくれた。
彼女は私達が葬儀に行っている間に家まで写真とお花を届けに来たけれど、留守だったので出直そうと持って帰ってきたのだという。ピングと黄色の花で彩られた可愛らしいフラワーアレンジメントを、私は早速マリモの祭壇の横に飾った。
最後のトリミングの写真の中で、マリモは桜の花が描かれた背景の中にちょっとお澄ましした表情でちょこんと座っていた。僅か22日前とは俄かに信じがたい元気そうな姿がそこにはあった。
その夜、我が家に差出人不明のプリザーブドフラワーが届いた。差出人が花屋になっているけれど特に知っている花屋ではない。ケースの上にマリモへのメッセージが添えられていたので、誰か私の友人だろう。差出人にお礼を言えないのは気がかりだったけれど、私はありがたく頂いてマリモの祭壇に飾った。
そしてその夜から翌日にかけて、友人やマリモが通っていた動物病院からも続々とフラワーアレンジメントが届いた。どれもお悔やみ用に白い花が中心だけれども、2歳の女の子の祭壇にふさわしい可愛らしいアレンジの物ばかりで、マリモの小さな祭壇は、さながらお花畑のような賑やかさになった。マリモは多くの人に愛されていたのだと思うと、また涙があふれた。
※まりもの名前は本来ひらがな表記ですが、文中では読みやすいようにカタカナにしてあります。