42、小さな骨壺袋 ~どうか安らかに(犬の腎不全)~
マリモの葬儀の翌週、私は布地を買いに大型の生地屋に向かった。マリモの骨壺袋用の生地やそのほかの材料を買うためだ。葬儀場で頂いたピンク色の骨壺袋は、あまり作りが良い物とは言えず、素材もナイロンであまり上質な物ではない。家に置いておくにしても、可愛かったマリモのイメージに全く馴染まない。どう見ても2歳の女の子が眠る骨壺にはあまりふさわしいとは思えないので、考えた末、自分で作ることにした。
あれこれと悩んだ後、私は優しいアイボリー色のオーガニックリネン生地と薄い水色のリボン、アジサイとスズランのアップリケを購入した。そして家に帰ると早速骨壺の大きさを測り、久々にミシンを踏んだ。
元々洋裁が好きな私にとって、ミシンの子気味良い音を聞くのは楽しいことだ。しかし今縫っているものはマリモの骨壺袋だ。マリモが来た頃、私は友人に依頼された垂れ幕のような布地を縫っていた。危ないから膝には乗せられなかったけれど、マリモはテーブルの上から聞こえるミシンの音に興味津々で抱っこをせがんだものだった。あの頃はマリモの骨壺入れを縫うなど考えもしなかった。
あの時の小さな可愛い赤ちゃんだったマリモが思い出されて涙が溢れる。涙で視界が滲んで何度か縫い目が曲がってしまい、小さな袋を一つ縫いあげるのに2時間以上もかかってしまった。あの垂れ幕を縫っているときもその後も、私がミシンを踏み始めると、マリモはいつも興味津々に見つめ、私の足元に来ていた。
スズランとアジサイの骨壺袋
小さな骨壺が縫いあがって口の部分にリボンを通し、正面側にスズランのアップリケを、裏側にアジサイのアップリケをつけた。骨壺袋に花のアップリケをしたのは、小さな女の子のお骨が入る袋なのだから、少し可愛らしい感じに仕上げたかったからで、スズランは夫の出身地である北海道の花であることから決めた。私達はいずれマリモも連れて、夫の実家がある札幌に移住する予定だったからだ。
アジサイは、マリモと毎日お散歩した公園にたくさん咲いている花だ。家からすぐの場所にあるこの公園は、春には桜が咲き6月にはたくさんのアジサイが花開く。
マリモは頭上の木の枝に咲く桜にはそれほど興味を示さなかったものの、地面の近くにも咲くアジサイは興味があるようでよく臭いを嗅いでいた。アジサイのアップリケは、二度目のアジサイの季節を待たずに逝ってしまったマリモに私が送りたい花だった。
出来上がった骨壺入れにマリモの骨壺を入れた。骨壺家入れは計測した通りマリモの骨壺にぴったりの大きさに仕上がっていた。淡いブルーのリボンを結んで祭壇に戻す。
自己満足なのは分かっているけれど、ピンク色のナイロン袋よりもオーガニックリネンの袋の方がきっとマリモのお骨も心地よく眠れるような気がした。
お骨は家に
斎場には納骨堂もあり、納骨を勧められたけれど、マリモのお骨は納骨しないことにした。マリモの知らない場所にお骨を置き去りになどできるはずがない。まして我が家は夫の転勤に伴う転居の可能性があり、そうなると私達はマリモのところにそうそう来てあげられなくなる可能性もある。
夫とも相談して骨壺を収められる小さなペット仏壇を買い、お骨はずっと家において、私達がお墓に入るときに一緒に入れてもらうことにした。私達がマリモのいる虹の橋に行くのは、まだかなり先になるだろう。でも、どんなに月日が過ぎてもマリモは虹の橋で尻尾をブンブン振って私達を迎えてくれそうな気がする。
その日まで、小さな可愛いお骨になったマリモと一緒に暮らしていこう。マリモは永遠に私達の宝物なのだから。
※まりもの名前は本来ひらがな表記ですが、文中では読みやすいようにカタカナにしてあります。